俺って誰?

里見哲

 「おれおれ」詐欺の被害者が後を絶たない。その手口は、最愛の家族を動揺させておいて、訳が分からないうちにお金を出させてしまうのだから、たちが悪い。世の中の出来事に精通し、一般人より沈着冷静なはずの弁護士までも被害を受けているという。犯人たちは、詳細なマニュアルを参考にして、犯行を重ねているようだ。

 だが、今回の事件は、家族のあり方を反省するべき契機となるものを含んではいないだろうか。いくら親しく、気の置けない人でも「おれおれ」で、家族とのコミュニケーションを済ましているのだとすれば、これこそ寂しく、問題なのではないだろうか。

 家族の崩壊とか、家庭内離婚という言葉をしばしば聞く。「おれおれ」という愛情を感じさせない相手に甘えた表現は、すでに時代にそぐわないものとなっているのではないだろうか。太郎と花子の夫婦で、孫太郎、梅子という子供がいる家庭では、「太郎だけど、花子愛しているよ」とか、「孫太郎だけど、お母さんお願い」とか、はっきり相手の名前を伝えることこそが愛情表現としても必要な時代になって来ているような気がしてならない。「飯、風呂、寝る」としか言わない亭主等はこの世から消え去りつつあるのだ。

 各家庭では、おれおれ詐欺の撲滅のためにも相手の名前を伝える習慣を身につけてはどうだろうか。学校でも、先生から「あなた」とか「おまえ」とか言われるより、自分の名前を呼ばれるほうがずっと嬉しかったはずだ。今回の事件は、はからずも現代の家族関係の実態をあからさまにしたように思われる。熟年離婚の増加と「おれおれ」詐欺は、同じコインの裏表かもしれない。勇気を持って「俺って誰?」と聞いてみよう。  

(H16/6/9記)


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