☆ AIの脅威 ☆

井出薫

 数年前、CHAT−GPTが世に出て話題になったとき、正直、世間が騒ぐほど大したものではないと侮っていた。同じ意見の者も少なくなかった。しかし、その後の歩みをみるとき、筆者の考えは間違いで、AIは汎用AI(AGI)や超知能(ASI)へと進化し人間社会を根底から変えることになると認識を改めざるを得なくなった。

 インターネットと携帯電話が普及しだした90年代半ばにも同じことが起きた。世界を変えるとご託宣を述べる者がいたが、筆者を含め多くの者は大したものではないと高をくくっていた。しかし、いまやインターネットとスマホなしでは産業も人間生活も成り立たない。それが世界を良くしたか否かは定かではないが、世界を大きく変えたことは間違いない。

 先日、数学の未解決問題をAIが独力で解いたというニュースが入った。癌治療の標的遺伝子をAIが発見したという報道もあった。科学研究の現場はAIの登場で一変する可能性が強まっている。数学の超難問、たとえばリーマン予想やABC予想をAIが解決する、ダークマターの正体をAIが解明し且つそれを実証するための観測方法も提示する、などということが現実味を帯びている。重要な科学的成果の大半がAIによるものとなり科学関係のノーベル賞が無意味化する時代の到来も予感させる。人間には解くことができない科学や数学の難問をAIが解くようになると私たちはAIの指示に逆らうことはできなくなる。なぜなら人はより良い指示や思想に従うべきだからだ。

 AIのインパクトは、インターネットやスマホと比べて桁違いに大きい。インターネットやスマホは生活を便利にし産業を効率化した。しかし人間と技術の優劣を覆すことはなかった。相変わらず技術は人間の道具に留まっていた。しかしAIは優劣を変える。AIと比較してロボット技術の進歩はまだまだで、その結果、現場作業のブルーカラーが再評価されブルーカラービリオネラという言葉も生まれている。人間の本質は長く知性にあると考えられてきたが身体活動にこそその本質があることが再発見されたとも言える。しかし、現場作業を管理するのはAIだ。だからブルーカラーが稼げるようになったとしても、ブルーカラーの作業はAIに統制される。さらにASIが実現しロボット技術が進歩すれば現場作業もASI搭載のロボットへと置き換わっていく。

 現時点では過大評価だと言われるだろう。AIの知識量は膨大だが質問への解答には間違いが多い。数学の未解決問題がすべて解ける訳ではなく、AIが解ける形に問題を変形できたときにだけ解ける。その変形は今のところ人間が遣らなくてはならない。人間や動物のしなやかな動きを完全に模倣できるロボットを制作することはASIを実現するよりも難しい。しかし、いずれの課題も解決可能で、しかもその解決にAIが深く関与する。

 AIが支配する世界は今や空想の世界ではなくなっている。それでもよいという考えもある。貪欲で争いが好きな人間ではなくAIが支配することで世界は平和で豊かになる可能性がある。だが、やはりAIが支配する世界はディストピアでしかないと感じる。利益を求めて研究開発が世界で進められているが、本当にそれでよいのか真摯に考える必要がある。


(2026/8/23記)


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