☆ 為替介入 ☆

井出薫

 7月末に日米が協調して為替介入を行ない円安を是正した。1ドル163円台が1日で1ドル157円台まで円高に動いた。これは両国の利害が一致した結果だ。米国は輸出産業の競争力強化のためにドル高を是正したい。日本は円安による物価高に悩まされており円安を是正したい。積極財政の高市政権は輸出産業の振興のため円安を容認する傾向が強かった。しかし過度の円安で物価高が続き消費の減退を招く恐れが生じ円安是正に舵を切った。  円安是正には日銀の政策金利を引き上げ欧米各国との金利差を縮小するという方策がある。日銀の政策決定会合のメンバーにも利上げを求める者が増えている。しかし政策金利を引き上げると日本経済に負の影響を与える恐れがある。企業への貸出金利が上がり、一般市民の住宅ローンの金利も上がる。いずれも経済成長にはマイナスに働く。高い経済成長を目指す高市政権としては安易に利上げに同意する訳には行かない。そこで、日米の協調介入という手段が取られることになったと言えよう。

 協調介入には賛否があるが、筆者は間違ってはいないと考える。日本経済は回復基調にあるとは言え依然として勢いを欠いている。欧米との金利差を意識し過ぎて安直に政策金利を引き上げることは賢明ではない。だからと言って、円安を放置する訳には行かない。輸入品の高騰で消費が減退する恐れがあるし、国内生産の費用が増大して輸出産業にも悪影響を及ぼす可能性がある。それゆえ日米での協調介入が有益となる。

 だが、協調介入には大きなリスクがある。国際経済のトリレンマという国際経済学の重要な原理がある。「為替の安定」、「資本の自由な移動」、「(各国の)金融政策の独立」、この三つを同時に実現することは不可能だという原理だ。たとえば「資本の自由な移動」と「金融政策の独立」を確保するためには「為替の安定」は放棄せざるを得ない。景気浮揚のために日銀が金融緩和策をとるとする。これにより金利は下がり経済活性化が期待できる。しかし資本の自由な移動が可能な場合、必然的に金利が高い国の通貨が買われ円は売られるから為替は円安に動く。つまり為替の安定は望めない。このことからも推測されるとおり「為替の安定」と「金融政策の独立」を両立させるためには「資本の自由な移動」を制限しないとならない。「資本の自由な移動」と「為替の安定」を両立させようとすると金融政策の独立性は維持できなくなる。資本の自由な移動を制限せずに為替を安定させるためには各国が共通の金融政策をとらなければならなくなるからだ。

 70年代前半以降、世界経済は固定相場制から変動相場制に移行した。「資本の自由な移動」と「金融政策の独立」をとり、為替の変動を容認(為替の安定を放棄)した。これに対して、今回の日米の為替への協調介入は為替の安定を取り戻そうとする試みと解釈される。実際、為替への協調介入が年単位で長期化すると日米の力の差により日銀の金融政策の独立性は失われFRBの金融政策に従属せざるをえなくなる。だが、そうなると日本の経済全体が米国の支配を受けることになる。日米関係がいくら重要だと言っても、これでは完全に属国となってしまう。

 それゆえ、協調介入を長く続ける訳には行かない。だからと言って政策金利を安易に上げることもリスクが大きい。高市政権がどのようにこの事態に対処するか、まさに責任ある積極財政の正念場だと言えよう。


(2026/8/3記)


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