☆ 数学教育にAIの活用を ☆

井出薫

 数学が苦手だという者は多い。宇宙や生命、地球史などに興味を抱く者は大人にも子どもにもたくさんいる。最新の科学技術には多くの者が関心を寄せる。だから、理系の高校、高専、大学に進学する者がたくさんいたとしても不思議ではない。ところが数学が苦手なために理系を諦めて文系に進む者が多い。

 文系の学門と教養が理系のそれに比べて劣るとか不要だとかいうことはない。しかし、現代文明において、社会の改善を進め、自然環境を健全に保つには、数学や自然科学の専門家や技術者が多数必要であることは言うまでもなく、誰もが理系の学問について一定の知識と教養を持つことが望ましい。それが欠けていることが似非科学、陰謀論やフェイクニュースが蔓延する原因にもなっている。それゆえ、理系専攻か、文系専攻かに関わりなく、数学と自然科学、技術に関して一定の知識と教養を有する児童、学生、社会人を育てることが重要になる。その中で鍵を握るのが数学だ。数学が苦手であることが原因で、自然科学や技術を避けがちな者が多くいる。

 ITやAIの利用には様々な課題が山積している。しかし使い方によっては大変に有益な道具となりえる。その中でも、有益な活用方法として数学教育に利用することが考えられる。

 小学生では分数の割り算で躓く者がいる。中学生では連立方程式が難関となる。高校生ではベクトル、特にベクトルの外積が難しい。高校レベルの微分積分も数学が得手でない者には敷居が高い。統計学が苦手な者も多い。高校までは数学が得意で理系に進学した学生でも大学の数学には苦労する。位相の概念などは高度に抽象的で問題の解法を学ぶことが中心の高校までの数学では対処が難しい。因みに筆者は理系だが複素関数論で躓いた。

 躓く最も大きな原因は数学の抽象性にある。人間は現実に存在するモノやヒト、日常言語を出発点として思考する。人間と言えど地球上の生物進化の過程で誕生した生物種の一つであり、その知的能力は自然環境へ適応するために進化した。それゆえ実在するモノ、ヒト、言葉を使って機能することにその本旨があり、数学の問題を考え、解くようにはできていない。だから数学が苦手な者が多くなる。

 そこでAIの出番となる。コンピュータは人間の知能と異なり抽象的な数学的思考方法つまりアルゴリズムに基づき動作する。AIはこのコンピュータの特性に基づき数学的論理を展開すると同時に、人間特有の思考方法をシミュレーションすることで、両者を媒介する。つまり、数学の学習者が数学の授業を受けたり、問題を解くとき、分からなくなったらAIに質問することで、理解の手掛かりを得ることができ、問題を解くコツをつかむこともできるようになる。

 多くの者が数学を好きになり、得意になることで、フェイクや根拠なき陰謀論に惑わされることを防ぎ、デジタル時代に相応しい人材を多数育成することができる。数学教育の現場ではITが利用されているが、AIの活用はまだ不十分だ。それは人間がどこで数学に躓くかに関してAIが十分に学習できていないことに起因する。数学の教育現場で児童や学生が数学が苦手になる過程を十分に調査しデータ収集して、そのデータをAIに学習させることで、この課題を解決することができる。研究開発が進むことを期待したい。


(2026/2/8記)


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