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井出薫
筆者は財政赤字削減よりも経済成長を優先する積極財政策を支持し、成長のためには移民受け入れ拡大が不可欠と考えている。しかし、ここには倫理的な問題がある。 筆者の主張にはこういう批判がある。「君は暗黙裡に外国の人々を日本経済成長の道具と考えている。ここには外国人を人間としてではなくモノとして扱うという致命的な倫理的欠陥がある」という批判だ。確かに筆者の主張にそういう側面があることは否めない。労働力を増やす目的で外国人を日本に迎えるのではなく、日本を誰にとっても暮らしやすい社会にして、日本に来たい者、日本で働きたい者に対して広く門戸を開き、日本を去りたいと思う者は日本国籍の者を含めて自由に去ることができるようにする。昔からの日本人も、日本にきて日本国籍を取得した者も、日本で暮らす外国国籍の者も同等の権利を持つ人間として互いを尊重する。そういう社会を構築することが先決で、人口減少で労働力不足になるから移民を受け入れるという発想は倫理的ではない。こういう批判に対してはそれが正当なものであることを認めざるを得ない。 カントは人間は目的であり手段として扱ってはならないと警告した。筆者が支持する経済政策にはカントの警告に違反している面がある。そして米国などこれまで積極的に移民を受け入れ経済成長を遂げてきた国で移民問題が大きな政治課題となり社会の分断を生んでいる背景には、移民を目的ではなく手段、経済的な道具として扱ってきたという誤りがあるように思える。 一方、人々の最大の関心事が経済にあることは間違いない。民主、自由、人権、平和などの理念を説いても、経済で失敗した政治家は民主主義社会でも退場させられる。中国は共産党の一党独裁が続き言論の自由が制限されているが、共産党独裁の下で目覚ましい経済発展を遂げ人々の生活は大きく改善された。だから中国の人々は共産党への不満を感じることはあっても、多くの者が現体制を支持している。もし石破首相が物価高による実質賃金の低迷を是正し、継続的・安定的に実質賃金さらには実質可処分所得の向上を実現していたら、選挙で勝利し安定した政権運営ができていただろう。歴史認識、人権、政治の在り方において良識ある態度を示してもそれだけでは国民は満足せず政権は維持できない。 それゆえ、経済成長のために移民受け入れを拡大するという主張を安易に撤回する訳には行かない。そもそも人間が目的ではなく手段として扱われているのは外国人だけではなく日本人も変わらない。経済学の数理モデルにおいては人間もモノも財の一つに過ぎず、目的としての人間というカントの理念は無視されている。現実の経済においてもそれは変わらない。現実の経済がそうだから経済学のモデルがそうなると言ってもよい。 真の民主、人権を実現するにはカントの理念を実行しなくてはならない。だが現実はそれにはほど遠い。この現実とどう向き合い、諸問題をどう解決していくか、非常に難しい課題で、筆者の能力では到底解決策など思いつかない。ただ、このようなジレンマがあり、それが社会に様々な混乱を招いていることを認識する必要があることは間違いない。 了
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