☆ 憲法を読もう ☆

井出薫

 5月3日は憲法記念日。しかし、多くの日本人にとって5月3日は3連休の初日でしかない。「日本国憲法など読んだことがない」、「9条以外はよく知らない。9条も条文は知らない」という者が多い。

 憲法は最高法規で国家の形を決める重要な法典だ。なのに何故これほどまで関心が薄いのか。憲法論議がもっぱら9条を巡って行われてきたことが影響している。しかも、9条維持派は左翼・リベラル、改正派は右翼・保守という単純図式が日本人の頭にこびりついているために、議論がイデオロギー闘争の様相を呈し、多くの日本人が論争に加わることを躊躇する。冷静に考えれば、左翼・リベラル=9条維持、右翼・保守=9条改正は必然ではないことが分かる。資本主義を解体して共産主義を実現し、同時に日米安保を解消し、軍事力強化を進める近隣諸国に対抗するために強力な軍隊を作る必要がありそのために9条を改正するという政治的な立場を取る者がいても何ら不思議ではない。逆に資源のない日本など侵略するメリットはなく、防衛力強化など費用が掛かるだけで無駄だ、その金を減税の原資とするべきだと主張する保守がいても少しも不思議ではない。日本共産党は護憲を旗印としているが、戦略的にそうしているだけで、政権を奪取すれば財産権の制約と並んで対米追従からの脱却のために9条改正に動く可能性が十分にある。本来、9条は政治的なイデオロギーと切り離して議論することができるし、そうするべきなのだ。そうすれば多くの者が議論に参加できるようになる。

 同性婚を認めていない現行法に関する違憲訴訟が各地で行われている。各高裁では違憲判決が続いており、最高裁の最終判断が待たれる。同性婚の憲法判断は、自由と幸福の追求権を認める13条と法の下での平等を定める14条、そして「婚姻は、両性の同意・・」という文言がある24条の解釈を巡って論じられる。関心がある者は少なくともこれらの条文を読んでみる必要がある。

 36条には、拷問及び残虐な刑罰の禁止が謳われている。死刑は残虐な刑罰だと主張する者がいる。しかし31条に「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」とあり、この条文の「その生命」という文言が死刑の合憲性の根拠とされている。憲法を改正しなくとも刑法を改正すれば死刑は廃止できる。しかし死刑を完全に廃止し復活できないようにするには31条から「その生命」という文言を削除することが望ましい。そうすれば、死刑は残虐な刑罰となり憲法上容認されないことになる。

 安全保障だけではなく、婚姻や刑罰など私たちの日常生活に関わる多くの事柄が憲法と関わっている。また、憲法には個人の権利と公共の福祉をどう両立させるかという重要な課題への解答がない。それについては、私たち一人一人が真摯に考えるべき課題として残されている。他にも憲法から学ぶべき点、また自分自身で考えなくてはならない問題が多数ある。憲法は読みやすいとは言えないが難解な用語がある訳ではなく、また短い。通読は難しくない。ぜひ一度機会を見つけてじっくりと読んでもらいたい。


(2025/5/3記)


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