☆ 解散権の制約を ☆

井出薫

 補選が自民党の1勝1敗に終わり岸田首相の衆院解散戦略に影響が生じた、などという報道がなされている。

 首相の解散権は憲法で明記されているわけではなく、形式的な規定に過ぎない憲法7条(天皇の国事行為)に衆院の解散が含まれていることから推定されているに過ぎない。憲法で首相の解散権がはっきり認められているのは、69条に基づき衆院で内閣不信任案が可決された場合ないし信任案が否決された時だけで、首相は解散か総辞職かを選択することができる。

 ところが、首相が自分の意思でいつでも衆院を解散できるという解釈が定着したため、首相は常に解散を意識して政局運営をする。そして、そこに在る思惑は国民のための政治ではなく、如何にして自分の政権を長持ちさせるかという私心でしかない。与党内反主流派や野党も、いつ解散があるか分からないと疑心暗鬼になり、腰を据えて国民のために何をすればよいかを考え、行動することができない。議員は議席を守ること(引退する場合は後継者を決定し支援すること)、党首は党の獲得議席を増やすことばかりを考え行動する。その結果、政治は国民から遊離し、既得権益を持つ者たちの勢力争いに終始する。投票率が低いことが問題となっているが、政治がこの有様では、国民が政治に不信感を抱き、「どうせ誰がやっても同じ」という諦観が広がり投票率が下がるのは当然だ。

 衆院の任期を固定することには問題がある。国民の支持を失った政権がだらだらと衆院の任期終了まで継続することがありえる。与野党逆転や与党内の対立激化で、国民のために必要な法案や予算が成立しない、など危機的状況が生じる恐れもある。しかしながら、いまの日本では、任意に解散ができるという慣行は明らかに国民のためになっていない。憲法に、首相が任意に解散できる権利を持つことが明記されているわけではないのだから、改憲をしなくても法律で首相の解散権を制約することができる。政治が国民のためのものとなるためにも、解散権を制約することが望まれる。


(2023/10/28記)


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