☆ 感染症の研究を ☆

井出薫

 感染症がどのように広がるのか、免疫はいつまで有効なのか、新型コロナの流行で、これらの問題がほとんど解明されていないことが明らかになった。

 今年は夏もインフルエンザが流行し、新学期早々、各地で学級閉鎖が続いている。新型コロナも同時に流行している。新型コロナの流行初期、インフルエンザが流行しなかったことを説明するために、ウィルス干渉なる理論が提唱され、新型コロナが流行すると、他のウィルスによる感染症は抑制される、だからインフルエンザは流行しなかったという説が流布されたことがあった。だが、ここにきて両者が同時に流行していることから、この説は疑わしいことがはっきりした。最近は、インフルエンザの流行は、新型コロナの感染対策の結果、インフルエンザが流行せず免疫がなくなっていることが原因だと言われている。だが、この説にも疑問がある。インフルエンザの中和抗体は高々半年で消滅すると言われてきた。だとすると、例年、夏場にも流行してもおかしくないはずだ。なぜ、今年だけ夏場に流行するのか。それとも、インフルエンザの中和抗体は1年近く存在するのだろうか。中和抗体はなくなっても、免疫記憶があれば重症化を防ぐだけではなく感染拡大を抑止するのだろうか。専門家から満足のいく答えを聞いたことはない。おそらく分からないというのが本当なのだろう。

 結局、感染症の流行や免疫の効果については分からないことだらけなのだ。だから、新型コロナの流行も、季節性インフルエンザの流行も正確な予測ができず、医療機関は対応に苦慮し、医師、看護師、介護士たちの苦労が続く。

 疫学的な研究が難しいことは分かる。実験室での実験研究だけでは感染の広がりを解明できない。理論的なモデルを構築して実際の感染の広がりと比較対照して研究を進めるしかない。しかし、新型コロナもインフルエンザも膨大な数の感染者がおり、感染の広がりを正確に追跡することはできない。結果的に、感染拡大の広がりと速度を正確に予測することは難しい。それでも、新型コロナの流行から3年半が経ち世界には大量のデータが蓄積されているはずだ。それを基に世界で協力して感染の広がりの実態を解明し、同時に免疫の効果を検証することができると思われる。これからも国境を越えた人的交流は増加すると予測される。それとともに新規の感染症が登場し世界に広がる機会も増える。その中には新型コロナ並みの感染力とより強い病原性を持つものも存在するだろう。世界各国の協力の下で研究が進むことを強く期待したい。


(2023/9/22記)


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