☆ ご都合主義 ☆


 石破首相は国民すべてに一人当たり2万円(低所得者とこどもには4万円)を支給すると公約した。財源は国債ではなく昨年の税収の上振れ分を充てるという。一応、名目は物価高対策だが、選挙目当てであることが見え見えで、思わず笑ってしまう。物価上昇の影響で、ここ数年、税収は毎年上振れしているが、一律支給が実施されたことはない。ところが選挙を前に一転して一律支給するという。

 石破首相は、消費税減税を要求する野党に対して日本の財政は非常に悪い状態にあると、失礼なことにギリシャを引き合いに出して反論した。本当にそう信じているのならば、2万円支給など止めて国債の償還や利子支払いに充てるのが筋だ。また毎年税収が上振れする状況ならば恒久的な減税または歳出拡大が可能なはずだが、それについては何も語ろうとしない。

 立憲民主党の野田代表は、民主党政権時代、党内外の反対を押し切って消費税増税を決めた。だから最初は消費税減税を渋っていたが減税策を求める党内の圧力に屈し一年の時限付で食料品の消費税率0を提唱した。しかし時限的措置だと言っても下げた税率を再び上げるのは容易ではなく政治的にも経済的にも混乱を招く。野田も石破と同様に場当たり的な対応に終始している。

 他の野党や公明党も減税を競うだけで、財政健全化論者が求める財源論には触れようとしない。共産党すら左翼色を弱めたいがためか、かつての旗頭であった大企業、高所得者、資産家への課税強化並びに防衛費削減を前面に出さない。国債償還60年ルールを日本固有の特殊ルールで不要だと批判する者がいる。筆者も不要なルールだと考えるが、それを廃止しただけで財源問題が解決する訳ではない。

 筆者は、「減税、教育・研究開発など成長に不可欠な歳出の拡大、移民の受け入れ拡大で消費と投資を活性化し経済成長を実現する。短期的には財政赤字が増大するが、財源は当初は国債発行と大企業や富裕層への課税強化、長期的には成長による税収増で賄う」という考えを持っている。これには反対が多いだろう。欧米、中国、韓国だけではなく途上国を含め世界各国の研究開発力や科学技術力は近年目覚ましく高まっており科学技術力と産業競争力で地位が低下し続けている日本を復活させることは容易ではない。大企業や富裕層への課税強化は資本の流出を招く、移民拡大は国民の反発が大きい、などの難点を指摘する者がいる。成長に失敗し赤字だけが増大すれば日本経済への信用が下落し経済破綻に陥る恐れもある。だが、いずれにしろ、筆者が述べた程度のことが主張できない限り、ご都合主義の誹りは免れない。

 政治家は自らの理想を実現するためにも選挙で勝たないとならない。だからご都合主義になることも、ある程度はやむを得ない。「君子豹変」という言葉が示す通り、誤りを犯したら速やかにそれを認め改めることは何よりも大切で、意見を変えることを恥じる必要はない。だが、政治家としての理念を失ったら、既得権益に固執するただの政治屋に堕落する。そのことだけは忘れないでもらいたい。


(2025/6/15記)


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