☆ 半世紀 ☆


 半世紀前、筆者は大学1年生、18歳青春真っ只中だった。と言いたいところだが、恋人はおらず、女子の少ない理工学部だったこともあり正直冴えない坊やだった。大学のキャンパスは、当時の流行もあり、今にして思えばよくもあんなダサい恰好ができたものだと驚くベルボトムのジーンズに汚い長髪の野暮ったい男子学生ばかりで、およそ華やかさはなかった。機能性を重視し艶やかさを放棄した無機的なコンクリートジャングルの校舎も色気のなさを際立たせていた。もっとも、其のおかげで彼女のいない寂しい男子学生が傷づくことはなかった。70年代前半は、左翼が強い時代だったこともあり、新左翼の学生や活動家が新入生を盛んに勧誘し、それに対抗して統一教会系の原理研究会が活発に活動していた。ピークを過ぎたとはいえ、まだまだイデオロギーの時代だった。

 女性アイドルの時代と言えば80年代が有名だが、73年当時も、天地真理、南沙織、麻丘めぐみ、浅田美代子、アグネス・チャンなどのアイドルが男子学生の心を鷲掴みにしていた。一方、筆者のカラオケの定番、『神田川』がリリースされたのも73年だった。

 筆者のことは別にして、1973年の一番の出来事は、オイルショックだった。同年10月第四次中東戦争が勃発、それを受けて産油国が原油価格の引き上げ、生産削減を実施、中東の原油に大きく依存する世界経済を直撃した。日本ではすでに列島改造論でインフレになっていたところで、原油価格の高騰が加わり狂乱物価となり、日銀は公定歩合を大きく引き上げ物価対策を行った。だが、その反動で景気は著しく後退、奇跡と言われた日本の高度成長は終わり、74年にはマイナス成長を記録した。トイレットペーパーがなくなるという風聞が流され、一部の消費者が大量買占めを行い、店舗からトイレットペーパーがなくなるという異常事態が発生した。今にして思えば、ネットもパソコンもスマホのない時代に、このような買占め騒動が起きたことは不思議な感じがする。スマホやネットがなくとも、口コミなどで噂というものは短期間で人々の間に流布されるものらしい。オイルショックはこのように日本経済に大きな打撃を与え社会は混乱したが、70年代前半は第二次ベビーブームと言われた通り日本社会にはまだまだ活力があり、日本経済は数年で立ち直った。79年から80年の第二次オイルショックも乗り切り、日本は安定成長期を迎え80年代末には日本経済は頂点に達し円マネーが世界を席巻した。だが、頂点からの転落は早く、バブル崩壊後は30年に亘り景気低迷が続いている。第二次ベビーブームは遥か彼方の出来事となり、今や少子高齢化で労働力人口減少と社会保障費の増大で財政は大赤字となり将来が危ぶまれている。

 横道にそれるが、73年は巨人がV9を果たした年でもある。この年まで、二リーグ制発足(1950年)以来24年間で、巨人は19回のリーグ制覇、15回の日本一という圧倒的な成績を収めてきた。しかし、翌年には中日に優勝を譲り、それ以降は他球団の台頭もあり、絶対的な存在ではなくなった。

 73年は戦後日本の分岐点であった。半世紀で日本は大きく変わった。年寄りのノスタルジーだと笑われるかもしれないが、まさに隔世の感がある。日本はバブル崩壊以来景気が低迷しているとはいえ、半世紀の富の蓄積、技術進歩などで、生活環境は改善され、医療の進歩もあり寿命が大幅に伸び、街は奇麗になり、栄養・衛生環境も大きく改善された。温暖化効果ガスの増大で地球温暖化という深刻な環境問題に直面しているが、地域の公害などは相当に改善された。総じて言えば、半世紀で社会は改善されたと評価することができる。では、これから半世紀後はどうなっているだろうか。社会はよくなったと言えるような時代になっていることを望みたい。


(2023/7/30記)


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