☆ 技術の向上と楽しさ ☆


 30年くらい前まで、プロ野球の先発投手は中3日で登板し、完投するのが普通だった。当時は年間130試合だったが、先発投手は年間40回近く登板し、最多勝投手の勝利数は20勝を超えるのが当たり前で30勝近い勝ち星を上げる者もいた。逆に弱いチームの先発投手は20敗以上負けることもあった。一方、中継ぎと抑えは、先発投手のレベルに達していない投手か、不調に陥った先発投手が調整のために務めていた。だから、最終回の逆転などが結構多く、それが野球の醍醐味でもあった。当時、野球は下駄を履くまで分からないとよく言われたものだが、事実そうだった。

 今では、先発、中継ぎ、抑えというシステムが確立し、先発が完投することは少ない。先発投手の登板間隔は5日か6日に延び、試合数が年間140以上と増えたにも拘らず、年間の登板回数は30を下回り、最多勝投手でも20勝に届かない。

 どうしてそうなったのだろう。昔の選手の方が、スタミナがあったのだろうか。

 そんなことはない。選手寿命は延び、投手、野手共に40を超えても現役を続ける者が増えている。登板間隔が長くなったとはいえ、もしスタミナが昔の選手ほどないとしたら選手寿命が延びることはない。また、常識的に考えても、年々、栄養状態や衛生状態、健康管理の手法などは改善されており、昔の選手の方が、スタミナがあったなどということは考えられない。

 要は打撃技術の進歩で、投手は中3日の登板では打者を抑えられる水準まで疲労が回復しないから、登板間隔が中5日、6日に延びた。また、試合でも終盤になると球速も制球も衰え打者を抑えきれなくなるから、中継ぎ、抑えのシステムが確立した。中継ぎ、抑えを務める投手は先発投手より劣っているわけではなく、先発よりも中継ぎ、抑えの方が向いている投手がそれにふさわしい役目を果たしている。事実、先発投手がにわかに抑えに回ってもうまくいかないことが多い。

 また、打撃技術の進歩に対応すべく投手の側の技術も進歩した。以前は考えられないほど多彩な球種を今の投手は投げる。だから、肩や肘に負担が掛かり、完投することが難しくなったとも言える。

 打者の技術が進歩すると投手の技術も進歩し、投手の技術が進歩すると打者の技術も進歩する。このような循環で野球の技術はどんどん進歩してきた。これからも進歩は続くだろう。同じことは、サッカーやラグビーなど他のスポーツにも当て嵌まる。

 だが、技術の進歩がスポーツをより楽しくしたかというと疑問だ。先発投手が予定通りに7回で交代し、あとは中継ぎ、抑えが仕事をする。野球の試合のパターンが確立し、大逆転など予想外の事態が起きることは著しく減った。また、技術が進歩しプレイや采配がパターン化した結果、選手の個性は目立たなくなった。技術の進歩は、スポーツを面白くすることには貢献しない。

 スポーツの醍醐味は身体の美を味わうことにある。たとえ敗れたとしても、最後まで投げ抜いた身体は美しい。むしろ体力を使い果たした身体こそ、人の本質を示すことで人の心を揺さぶる。マラソンで最下位の選手に観客から惜しみない拍手、優勝した選手以上に多くの拍手が送られるのはそのためだ。

 野球に限らず、今のままただ技術を磨くだけでは、技術進歩とともにスポーツの醍醐味は失われスポーツ離れが進んでいくような気がする。何か対策を打つ必要があるのではないだろうか。


(H30/7/15記)


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