☆ 量子状態 ☆

井出 薫

 量子論に従う量子状態には、純粋状態と混合状態がある。密度演算子を使うことで両者の違いを定義できる。密度演算子の二乗の対角和が1になるのが純粋状態で1未満が混合状態だ。

 量子論の基礎法則に従うと、純粋状態から混合状態に、混合状態から純粋状態に移行することはない。だから、量子論が物理世界(宇宙)すべてを包含する普遍的な原理だとすると、宇宙は混合状態か、純粋状態かのいずれかであることになる。ところが、純粋状態を作り出すことができ、その一方でアボガドロ数規模の原子分子の集合体は混合状態にあると考えられている。つまり両者が混在する。

 この問題は「波束の収束」と呼ばれる観測問題やアインシュタイン・ポドルスキー・ローゼンのパラドックスとも関連している。後者は量子もつれとして、量子コンピューティングの重要な要素となっている。

 量子論の世界は不可解なことが多い。だが、それは現実世界を説明し、未来を予測し、様々な人工物を制作するうえでこの上なく強力な理論として存在する。

 このことは、古典的な無矛盾的形而上学が破綻していることを示唆する。理論を世界に内在する原理あるいは設計図としてみるときに、古典的無矛盾的形而上学が生まれる。そして、西洋哲学はその枠内で展開されてきた。だが、量子論の存在は、古典的無矛盾的形而上学を廃棄してモデル・道具論へと移行するべきであることを示唆している。


(2023/6/27記)

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